自動車用動力伝達技術研究組合(Transmission Research Association for Mobility Innovation,TRAMI,理事長:平工 良三 氏・日産自動車)は,2024年11月19日(火),東京都立産業貿易センター浜松町館3階北展示室(東京都港区)で「第7回公開フォーラム」を会場・オンラインのハイブリッド形式にて開催した(写真1)。
TRAMIは,世界的な関心が高まる高効率な駆動・電動による動力伝達技術において合同で研究を加速していくための組織として2018年4月に設立。2024年11月現在,主要自動車会社・サプライヤーと一般財団法人の計12法人(アイシン,いすゞ自動車,ジヤトコ,スズキ,SUBARU,ダイハツ工業,トヨタ自動車,日産自動車,本田技研工業,マツダ,三菱自動車工業,日本自動車研究所)で構成される。
TRAMIの理念は,「産学連携を通じ我が国の駆動系技術の発展と,それを担う人財が育つ環境を提供すること」としており,産学連携がTRAMI活動の基本となっている。
この理念のもとに次の事業が行われている。
- 自動車用動力伝達システムの伝達効率,音・振動低減,軽量化技術,電動化に関する基礎・基盤研究
- 自動車用動力伝達システムに関する合同調査
- MBD(Model Based Development,モデルベース開発)推進のための自動車用動力伝達システムのモデル化
TRAMIが取り扱う技術範囲は車両の駆動系技術であり,車の動力源(エンジン)からタイヤに至る動力/エネルギーの伝達に関わる一切の要素および総合/統合システムである。TRAMIではその技術範囲のさらなる発展を促し,エネルギー損失等を減らすことによりカーボンニュートラル達成に貢献するとともに,車両から発する音や振動の抑制技術の追求も行っている。
またTRAMIでは電動化に大きく舵を切りつつも既存の機械要素研究の適用領域の拡大,さらなる技術の深掘りと,多岐にわたる活動を推進し多くのステークホルダー,産業界ならびに大学研究者とTRAMIが連携し,日本の持続的発展を支える技術組合であることを目指している。
今回のフォーラムでは,システム・ユニットに大きく近づくTRAMIの次年度研究方針やシナリオに加えて講演が行われた。
TRAMI運営委員 朝岡 克之 氏(アイシン)の開会宣言,平工 理事長の開会挨拶,緑川 美桜 氏(経済産業省自動車課 課長補佐)の来賓挨拶の後,特別講演「若者世代と一緒に未来の街を考える ~モビリティ・環境・エネルギー・コンパクトシティ~」と題し,梅山 光広 氏(石巻専修大学 教授)は,「未来に向かっていくためには,共感を呼び起こす志(こころざし)が大切である。これからを生きる若者のマインドを知り,今までの繁栄を支えてきた世代が若者世代と一緒に,価値観を共有して取り組むことが大切な時代となった」として,未来に向けて若者世代と共に取りくむ,持続可能なまちづくり,将来のモビリティ作り,再生可能エネルギーの地域活用について紹介した。
次に「TRAMIが考えるCN(カーボンニュートラル)シナリオと日本自動車産業への貢献」と題し,TRAMI運営委員長の斉藤 康 氏(日産自動車)は,「地球の環境問題深刻化により自動車のCO₂排出削減の重要性は以前よりも増加,電動車の台数拡大が早急に必要である。TRAMIのカーボンニュートラルシナリオでは,車両駆動用電動モーターの材料資源不足と製造時CO₂排出増を同時に解決する手段としてモーターの超高回転化による電動駆動システムの小型・軽量化の技術研究を重視している。また電動駆動システムの小型化は電動車開発の設計自由度を向上させ新たな電動車の魅力創出につながる。将来の電動車拡大を日本の自動車産業が牽引するためTRAMIは研究活動を通じて貢献したいと考えている」ことなどを話した。
TRAMI 運営委員の森 淳弘 氏(日産自動車)は,「TRAMIは駆動モーターの超高回転化(5万rpm超)による小型・軽量電動駆動システムの実現 に向けた研究を重点化している。これにはモーター本体の技術革新のみならず,減速機構造,インバーター制御を含めたシステム全体としての小型・軽量化とともに効率・熱・音の課題に対する技術的なブレークスルーが必要となる。TRAMIは今後技術領域をTRL4~5まで拡張した研究を推進する」ことを説明した。
次にTRAMI研究テーマ発表として「電動車 快音化指針の構築」戸井 武司 氏(中央大学 教授)からは,「BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)はエンジン消失に伴い車室内が静音化される一方,モーター,インバーターやギヤ等の高周波純音が不快感の要因になる。そこで,聴感特性と非定常の高周波純音の関連性より,不快に感じない音量を把握した。また聴覚に与える視覚や運転動作の影響を明確にし,さらに加速意志により純音の認知や変化が生じる」ことの解明を紹介した。
「TRAMI活動と参加魅力」と題し,TRAMI運営委員の宮﨑 剛枝 氏(アイシン)は,TRAMI主催の活動や参加制度の説明と,実際に参加されている方々の声を交えながら,その魅力を解説した。
TRAMI専務理事 藤井 透 氏(同志社大学名誉教授)の閉会挨拶の後,開場では第2部のポスターセッションが行われ,研究グループごとに2030年に向けた研究シナリオやロードマップ,2025年度研究テーマを説明,展示品や動画による紹介コーナーもあり,来場者は実際に研究活動へ参加しているメンバーとの個別の質疑・ディスカッションを行った(写真2)。(’24 12/11)