2025年3月19日

「ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー」開催される

アーステック

世界最大級の産業見本市「HANNOVER MESSE(ハノーバーメッセ)2025」(主催:ドイツメッセ)が,2025年3月31日~4月4日までの5日間,ドイツ・ハノーバー国際見本市会場(写真1)で開催される。

ハノーバーメッセ国際見本市会場-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
写真1 ハノーバーメッセ国際見本市会場

現在,産業界は歴史的な転換期にあり競争力と持続可能性の両立が求められている。そのためには,産業のデジタル化,オートメーション,電化の推進が不可欠だ。今回のテーマは,「Industrial Transformation – Energizing a Sustainable Industry(産業変革-持続可能な産業の活性化)」。

AI(人工知能)による競争力の大幅な向上,製造プロセスのデジタル化,水素活用による工場全体の運用最適化など,先端技術がもたらす新たな可能性が注目される。

開催まで約1ヵ月となった2月19日(水)には,ハノーバー国際見本市会場にて,世界中のジャーナリストを招いた「HANNOVER MESSE Preview 2025 Press Conference」が開催され,本展示会の概要や注目ポイントが紹介された。

1.世界経済の変動とハノーバーメッセの役割

ドイツメッセ社CEOのJ.ケックラー 氏(写真2)は,世界経済の現状とハノーバーメッセの意義について次のように述べた。

ケックラー氏-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
写真2 ケックラー氏

「本イベントは,産業界の最前線を牽引する技術とビジネス戦略を共有し,未来の競争力を高めるための場です。世界中の企業や専門家が集結し,最新のイノベーションを発信します。

ハノーバーメッセ2025は,世界経済の不確実性が高まる中での開催となります。現在,米国,中国,欧州各国の成長率は異なる動きを見せており,特にドイツ経済は厳しい状況に直面しています。しかし,ドイツは依然として世界第3位の経済大国であり,産業貿易の分野で高い競争力を維持しています。本展示会では,企業がコスト管理と技術革新を両立し,競争力を高めるためのソリューションを提供することを目的としています。

2025年の注目テーマは,スマート製造と生産,持続可能なエネルギーと水素技術,そしてグローバル市場戦略の3つです。これらのテーマを通じて,産業の未来を見据えた議論が行われます。今年のハノーバーメッセには,約4,000社が出展します。

熟練労働者不足に対応するための自動化技術,バッテリーセル生産の自動化,生産オペレーションのデジタル化など様々な課題を解決する最先端技術が披露されます。数年前,私たちは『見本市は将来も存続できるのか』という疑問を持っていました。しかし,この数年で分かったことは,『同じ課題を抱える人々が一堂に会することで,新たな解決策を発見し,市場にフィードバックできる』ということです。インターネットでは,解決策そのものや,それを持つ人を見つけることは難しい。しかし見本市ではそれが可能です。これが,見本市がビジネスにつながる理由なのです。」と紹介した。

2.パートナーカントリー・カナダの取り組みと国際協力の強化

次にパートナーカントリー・カナダからは,カナダ政府のChristina Bilyk 氏,駐独カナダ大使館のEvelyne Coulombe 氏,Next Generation Manufacturing Canada (Ngen) CEOのJayson Myers 氏から次のように紹介した。

「2年半ほど前にドイツ・ショルツ首相がカナダを訪れ,カナダ・トルドー首相にハノーバーメッセ2025のパートナーカントリーへの要請からプロジェクトが始まりました。ハノーバーメッセ2025を通じて,環境に優しくデジタル化された製造ソリューションやグリーンで環境保護能力の高いデジタル技術,安全でレジリエントなバリューチェーンの構築支援などを世界に示すことを目指しています。カナダとドイツは長年にわたり強固な経済関係を築いてきましたが,本イベントはその関係をさらに深化させる重要な機会となります。カナダは,225社の出展企業と1,000人以上を派遣し,最先端の技術とイノベーションを紹介する予定です。テクノロジーを展示するだけではなく,ビジネスの意思決定者,投資家,投資を探すカナダ企業がイノベーションパートナー,サプライヤー,顧客を探すために参加します。ホール2の「フューチャーハブ」では,国家イノベーションエコシステムを,ホール7の「ロボティクス&オートメーション」では,AI対応のロボット技術を展示します。また,ホール17の「デジタルパビリオン」では,AI,量子コンピューティングやサイバーセキュリティの最新技術を披露し,ホール13の「エネルギーパビリオン」では,バイオマテリアル,代替エネルギーシステム,地熱や水素技術に焦点を当てます。カナダは,これらの技術を通じて市場の多様化を進めるとともに,国際的な投資を促進し,研究開発パートナーシップを強化する狙いです。」と述べた。

3.「次世代AI技術と産業への影響」について講演

次に,「次世代AI技術と産業への影響」について講演が行われた。

産業界を代表しAltair社のバイスプレジデントであるFatma Kocer-Poyraz 氏からは,「Altairもまた,AIと産業技術の融合を推進する企業の一つです。ミシガン州デトロイト近郊に本社を構えるAltairは,40年にわたりエンジニアリングとデータサイエンスを結びつける研究を続けてきました。約3,500人の計算科学者が在籍し,16,000社以上の企業に向けてソフトウェアやコンサルティングを提供しています。特に,AIを活用した製品開発の最適化に注力しており,例えば自動車のエアバッグ設計では,従来数時間かかっていたシミュレーションを30秒以内で完了できるようになりました。AI技術の進化により,開発期間は大幅に短縮され,企業はより迅速に市場へ新製品を投入できるようになりました。こうした技術革新は,自動車業界のみならず,建設機械や航空宇宙産業など,幅広い分野に応用されています。」と話した。

学識者を代表してJohannes Kepler University LinzのSepp Hochreiter 氏からは,「AI技術の進化もまた,ハノーバーメッセ2025における大きなテーマの一つです。これまでAIは,モデルの規模を拡大することで発展してきましたが,データ量の限界により新たな方向性が模索されています。従来のトランスフォーマーモデルは計算負荷が高く,エネルギー消費も大きいという課題がありましたが,新たに開発されたXLSM(拡張ロングショットメモリ)は,より少ない計算資源で高い処理能力を発揮する技術として注目されています。

特に,自動運転やロボティクスの分野では,リアルタイム処理が求められるため,XLSMのような軽量で高速なAI技術が重要となります。AIの活用は今や避けられない流れであり,企業はこの変革に適応することで競争力を維持しなければなりません。」と話した。

4.ROBOTICS AWARD 2025をカナダ企業が受賞

ロボットの自動化や物流ソリューションを表彰する「ROBOTICS AWARD 2025」では,高度な3Dスキャン,自動ロボットパス生成などにより多品種生産の最大の課題の1つである継続的な再プログラミングとセットアップを解決したカナダのMaple Advanced Robotics社などが受賞し,ステージで表彰された(写真3)。

ROBOTICS AWARD-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
写真3 ROBOTICS AWARD

また授賞式の後には,出展企業を代表して28社がミニブースでハノーバーメッセでの出展情報を公開した(写真4)。ここではAIやIoTなどメンテナンス分野で注目される7社を紹介する。

ミニブースの風景-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
写真4 ミニブースの風景
Altair(ホール17,D35)
https://altair.com/

シミュレーション,ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC),データ分析,AI分野でのソフトウェアとクラウドソリューションを活用した製品開発の未来を紹介する。

また製品設計におけるAIの変革的役割についての基調講演では,物理学に基づく洞察力とAI主導の学習を統合することで,イノベーションが加速し,設計時間が1,000倍短縮され,より安全で持続可能かつ高性能な製品の作成が可能になる仕組みなどを解説する。

Altair-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
FESTO SE & Co. KG(ホール7,ブースA32)
https://www.festo.com/de/de/

デジタル化の先駆者でIndustry4.0プラットフォームの創設メンバー。メカトロニクス,オートメーション,AIの専門家を駆使し,プラントの効率を高めるカスタマイズされたソリューションを提供する。設計からコミッショニング,運用までのデジタルサポート。機械・プラントエンジニアリングにおけるデジタルツインの標準化と一貫した利用の可能性。人工知能による生産の最適化。リアルタイム機械データによる予知保全の付加価値などがブースで体験できる。

FESTO SE & Co. KG-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
HARTING Technology Group(ホール11,ブースC43)
https://www.harting.com/en-DE

産業用コネクティビティは輸送,eモビリティ,再生可能エネルギー発電,自動化,機械工学など多くの産業分野で「データ,信号,電力」の伝送に欠かせない。エネルギー,産業,モビリティ各分野に焦点を当て,オール電化社会における持続可能でインテリジェントなエネルギー供給と省資源生産にコネクティビティが果たすべき貢献を実証する。

HARTING Technology Group-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
igus GmbH(ホール6,ブースE26)
https://www.igus.eu/

潤滑剤不要の高性能ポリマーを開発,製造し,あらゆるものが動く場所で技術向上とコスト削減に寄与する。エネルギー供給,柔軟なケーブル,すべり軸受とリニアガイド,トライボポリマー製のリードスクリューなど。摩擦と摩耗を低減するために使用されてきたPTFEを使用しない可動用途向けPTFEフリープラスチックの最新の各種軸受製品や,持続可能な産業向けにPTFEフリーとリサイクル素材から作られたエナジーチェーン,需要が増す電気自動車にともない高品質なリチウムイオン電池製造などドライクリーンルームで使用するフラウンホーファーIPAと共同開発したエナジーチェーンなどを紹介する。

igus GmbH-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
KAESER KONPRESSOREN(ホール12,B14)
https://www.kaeser.com/int-en

世界有数のコンプレッサー製造,圧縮空気システムプロバイダー。効率的な圧縮空気生成による省エネルギーやコスト削減が今まで以上に重要になる中で,圧縮空気処理,排熱利用,革新的な測定技術を使用した効率監視システムなどを紹介する。

KAESER KONPRESSOREN-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー
Karlsruher Institut für Technologie(KIT)(ホール2,ブースB35)
https://www.kit.edu/english/index.php

OpenEarable(https://open-earable.teco.edu/)は,KITで開発されたオープンソースのAI耳センシングプラットフォームで,ワイヤレスイヤホンを単なるオーディオデバイスから次世代のスマートウエアラブルに変身させる。片耳に3つのマイクを装備し,ユーザーの頭蓋骨の振動を通じて音声をキャプチャすることで最も騒がしい作業環境でも明瞭。モーションセンサーは,正確な転倒検出と反復動作の監視が可能で,高度なバイオセンサーは最も過酷な条件下でも疲労,熱中症,その他の健康指標を検出することで労働者を保護する。

Karlsruher Institut für Technologie(KIT)
Schaeffler Technologies AG & Co. KG(ホール5,ブースD18)
https://www.schaeffler.com/fork/

2024年10月ヴィテスコテクノロジーズとの合併以降,主要見本市で初出展となる。駆動技術からエネルギー生成,持続可能なサービスソリューションまでのモーションのすべての領域をカバーする。軽量ロボットとコボット向けの革新的なXZUアンギュラコンタクトニードルローラーベアリング,高解像度と直線性により産業用ドライブトレインでのトルクの正確な非接触測定を可能にするTorqueSense,ロボット工学の論理的な発展を示すヒューマノイドの主要コンポーネント(ベアリング,ギアボックスコンポーネント,センサー,アクチュエーター,電気モーターなど)を紹介する。

Schaeffler Technologies AG & Co. KG-ハノーバーメッセ2025プレスプレビュー

ハノーバーメッセ2025が描く未来

ハノーバーメッセ2025は,単なる見本市ではなく,産業の未来を形作る場としての役割を担っている。本イベントでは,企業の経営者,技術者,研究者が一堂に会し,新たなビジネスモデルや技術の可能性を模索する機会が提供される。AI技術の発展,エネルギーの持続可能性,グローバル市場戦略の強化など,多くの課題と可能性が議論されることになるだろう。ハノーバーメッセ2025で,産業の未来がどのように描かれるのか,大いに期待したい。(’25 3/19)

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