日本精工(NSK)では,カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けて,同社製品を活用する設備のメンテナンスや補修,廃棄までを含めたプロダクトライフサイクルを通じて,ユーザーと価値を協創する新たな事業モデルの確立に取り組んでいる。今回,その一環として,同社独自の診断技術を活用した,軸受の再生・再利用を促進する取組みについて,グローバルにビジネスを展開する製鉄会社のメンテナンス現場にて検証を開始した。
鉄鋼や製紙,鉱山などの設備では,一般的に,設備の定期的なメンテナンスの一環として,設備から軸受を取り外し,分解洗浄後に外観調査に基づき表面の研磨など必要な補修を施した後,再び設備へ取り付けて再利用している。
軸受はそのライフサイクルにおいて製造時に多くのCO₂を排出するため,軸受の寿命を残さず最期まで使用することで,ユーザーのメンテナンスコストの削減やCN実現に貢献することができる。しかし現状では,メンテナンスを実施する現場で,簡単・正確に軸受の余寿命を把握できる手法が普及していないことから,設備の安定稼働を担保するため,一定時間稼働した軸受は寿命を残したまま廃棄されている課題がある。また,設備へ再び取り付ける前には,作業者が軸受の外観を目視してその再利用可否を判断しているが,作業者の技量に依存しており,その高齢化も進んでいるため,精度のばらつきやノウハウの伝承も課題となっている。
前述の課題の解決に向けて,同社は独自の「非破壊疲労度診断」技術を開発。同技術により,軸受を破壊せず現場で簡単に,かつ正確に軸受の疲労進行度を把握できるようになる。これに加えて同社では,再利用することを前提とした新しい設計思想の「再利用可能軸受」も開発し,そのラインナップの拡充を進めている。また,軸受の製造から状態監視・診断,再生・再利用までが記録された「軸受トレーサビリティデータ」をもとに,軸受の使用やメンテナンス最適化の提案に活用していく。
今後,同社では,これらの診断技術や再利用に対応した製品,データ活用を通じて,安心・安全に軸受を再生・再利用できるサービスを新たな事業モデルの一つとして提案していく。また,今回の軸受の再生・再利用に向けた取組みをはじめとして,プロダクトライフサイクルを通じた新たな事業モデルをソリューションとして2026年より順次提供していく予定で,今回検証を開始した鉄鋼業界に限らず,製紙,鉱山,さらには鉄道,風力発電など様々な業界のユーザーとともに,社会課題解決に貢献する価値協創を進めていきたい考え。(’25 10/1)