2026年3月18日

再生可能エネルギー社会を工場で実証―フエニックス・コンタクトがAESコンセプトを公開-

再生可能エネルギーを基盤とする「完全電化社会」の実現に向け,産業界の動きが加速している。ドイツの電気接続部品・機器メーカー,フエニックス・コンタクトは2026年2月24日(火),同社本社のあるドイツ・ヴェストファーレン州ブロムベルクで次世代エネルギー社会のビジョン「オール・エレクトリック・ソサエティ(AES)」を紹介するイベントを開催した。最新の生産拠点では,直流電力網や氷蓄熱システムなどの技術を組み合わせ,再生可能エネルギーを効率的に活用する工場運営を実証している。

1.完全電化社会を目指すAES構想

2026年4月20日から開催される世界最大級の産業技術見本市「ハノーバーメッセ2026」に先立ち,フエニックス・コンタクトは2026年2月24日,ドイツ・ブロムベルクの本社で各国からのジャーナリストに対してプレスツアーを開催し,同社の最新技術と将来ビジョンを公開した。

フエニックス・コンタクトは創業100年以上の歴史を持ち,世界50ヵ国以上に販売拠点,10ヵ国以上に生産拠点を展開するグローバル企業で従業員は約2万人にのぼる。

同社は,接続技術(Connectivity),制御盤構築の効率化(Cabinet Efficiency),電源の信頼性(Power Reliability),オートメーション(Automation)の4つをコア事業として展開し,10万点以上の製品を提供している。2024年の売上高は約34億ユーロで,今後も成長を見込んでいる。

今回のツアーでは,同社が掲げる「オール・エレクトリック・ソサエティ(AES)」という将来ビジョンが実際の工場でどのように実装されているのかが紹介された。

プレゼンテーションの風景-フエニックス・コンタクトがAESコンセプトを公開
写真1 プレゼンテーションの風景

2.不確実な時代に対応する生産戦略

ウルリッヒ・ライデッカ 氏(Ulrich Leidecker)をはじめとする経営陣が登壇し現在の市場環境と今後の戦略について説明した。

世界では地政学リスクの高まりやサプライチェーンの不安定化,さらに気候変動への対応など,企業を取り巻く環境は大きく変化している。こうした状況の中で重要になるのが企業の「レジリエンス(回復力)」の強化であると指摘した。

その対策として同社では「Local for Local(地域で生産し地域で供給する)」戦略を推進している。メキシコでの新工場建設や,ドイツ本社内の1億ユーロ規模の物流センター建設など,主要市場の近くで生産と供給を行う体制を整備している。

3.AESファクトリーが示す次世代工場

次に2024年に稼働した最新生産施設「AESファクトリー」を見学した。投資額は3,500万ユーロ,延床面積は18,500m²。この施設は,再生可能エネルギーを効率的に活用する工場モデルとして設計されている。

AESとは,再生可能エネルギーを基盤とする完全電化社会を意味する。発電,エネルギー変換,蓄電,消費を統合したエネルギー管理を行い,産業・インフラ・モビリティなどの分野を相互に連携させる「セクターカップリング」によって,カーボンニュートラル社会の実現を目指す構想である。

AESファクトリーの見学風景-フエニックス・コンタクトがAESコンセプトを公開
写真2 AESファクトリーの見学風景

3-1 氷エネルギーを利用する空調システム

AESファクトリーで注目される技術の一つが,地下に設置された巨大な氷蓄熱システムである。

直径19m,高さ6mのタンクに約150万Lの水を蓄え,水が氷になる際に発生する「潜熱」を利用する仕組みだ。

冬季には水が凍る際に発生する熱を暖房に利用し,夏季には蓄えた氷を冷房に活用することで,一般的なヒートポンプよりも高いエネルギー効率(COP8〜9)を実現している。

このシステムにより,再生可能エネルギーを効率よく利用する工場空調が可能になる。

3-2 工場内に直流電力ネットワークを構築

同工場では650Vの直流(DC)電力ネットワークが導入されている。産業設備では通常,交流電力が利用されているが,太陽光発電や蓄電池は直流で発電・蓄電されるため,交流に変換する際にエネルギーロスが生じる。

直流電力網を利用することで,太陽光発電との接続効率向上,生産設備のブレーキエネルギー回収,電力需要ピークの削減といった効果が得られる。

工場では,双方向EV充電設備,ロボット,照明などがこのDCグリッドに接続され,PLCnextコントローラーにより統合的に制御されている。

3-3 制御盤製造を変えるデジタル化

制御盤製造の現場では,熟練技術者不足が大きな課題となっている。同社ではこの課題に対し,設計データと製造現場をデジタルで連携させる「作業者アシストシステム」を導入している。

設計段階で作成した3Dデータを作業支援システムに取り込むことで,作業者は画面の指示に従いながら組み立てを進めることができる。その結果,経験の少ない作業者でも高品質な制御盤製造が可能になる。

さらに,新しい配線接続方式「Push-X」も紹介された。この技術では,スプリング構造を利用して電線を挿し込むだけで接続が完了する。工具を使用する必要がなく,作業時間の短縮と作業品質の安定化に寄与する。

4.ハノーバーメッセでAESの全体像を提示

ツアーの最後には,ハノーバーメッセ2026での展示コンセプトが紹介された。同社の展示テーマは「Integrated Solutions for Energy, Safety and Processes」である。

展示では「エネルギー供給の信頼性向上」,「安全なオートメーション」,「制御盤構築のデジタル化」,「産業通信の接続技術」の4分野を中心に紹介する。

個別技術の紹介にとどまらず,エネルギーとオートメーション,インフラがどのように連携して次世代の産業社会を形成していくのかを体験できる展示を行うとしている。


<AESファクトリーの注目技術>
  • 氷蓄熱システム 地下の巨大タンクに水を蓄え,氷への相変化で発生する潜熱を利用。暖房・冷房のエネルギー効率を大幅に向上。
  • 産業用DCグリッド 650Vの直流電力網を工場内に構築。再生可能エネルギーとの接続効率を高め,電力ロスを低減。
  • エネルギー回収システム 生産設備の減速時に発生するエネルギーを回収し,工場内で再利用。
  • デジタル制御盤製造 設計データと製造現場を連携させた作業支援システムにより,熟練技能に依存しない製造を実現。
  • Push-X配線接続技術 工具不要で配線できる新接続技術。作業時間の短縮と自動配線への対応を可能にする。  (’26 3/18)
The All Electric Society Park(フエニックス・コンタクト社HPから)-フエニックス・コンタクトがAESコンセプトを公開
図1 The All Electric Society Park(フエニックス・コンタクト社HPから)

Related Posts

「オール・エレクトリック・ソサエティ」を支える産業用コネクティビティの革新―ハーティング・プレスツアー2026に見る,デジタル化・電化・自動化の未来―

「オール・エレクトリック・ソサエティ」を支える産業用コネクティビティの革新―ハーティング・プレスツアー2026に見る,デジタル化・電化・自動化の未来―

ハーティングは2026年2月23日(月),同社の本拠地ドイツ・エスペルカンプにてプレスツアー開催,各国から集まったジャーナリストに対し,目前に迫ったハノーバーメッセ2026のプレビューと,同社が描く中長期的なイノベーション戦略を公開した。

ソニーの高機能製品向けにリニューアブルプラスチックのグローバルサプライチェーンを構築

ソニーの高機能製品向けにリニューアブルプラスチックのグローバルサプライチェーンを構築

ソニー,三菱商事,出光興産など14社は,世界で初めてソニーのオーディオ・ビジュアル製品などの高機能製品に使用可能なリニューアブルプラスチックを製造するグローバルサプライチェーンを,5つの国・地域にわたる14社で共同構築した。

Share This