ドイツの特殊化学品メーカー,ランクセスの日本法人(代表取締役社長:米津 潤一 氏)は,2024年4月19日(金)に都内で記者説明会を開き,2023年度通期業績および2024年度の事業活動や業績見通しを発表した。
同社は,2004年にバイエル社から独立し,コンシューマープロテクション製品(フレーバー&フレグランス,物質保護剤,液体高純化テクノロジーズ,サルティゴ),スペシャリティー・アディティブス(ルブリカントアディティブス,ポリマーアディティブス,ラインケミー),アドバンスト中間体(アドバンスト工業化学品,無機顔料)の事業を展開しており,ドイツ・ケルンに本社を置き世界32ヵ国に12,800人の従業員を擁している。
2023年度の実績と2024年度の業績見通し
2023年度通期の連結売上高は前年比17%減の67億1,400万ユーロ(前年:80億8,800万ユーロ)となった。EBITDA(税引前利益に支払利息,減価償却費を加えて算出される利益)は特別項目を除き前年比44.9%減の5億1,200万ユーロ(前年9億3,000万ユーロ)となった。
米津 社長は次のように説明した。2023年はドイツの化学業界にとって複数の危機が重なった年となり,多くの顧客産業および市場における需要低迷と顧客による在庫削減,ドイツのエネルギー価格の高騰,地政学的緊張が重なった。ランクセスの2023年度の業績もこれらの影響を受けた。しかし今年度は,緩やかな増益を見込んでいる。
2023年は需要の低迷とそれに伴う販売量の減少,さらに(稼働率低下などによる)遊休コストの上昇により,主にスペシャリティー・アディティブスとアドバンスト中間体部門の収益は大幅に減少した。ドイツの化学業界とランクセスはこれほどまでの危機に見舞われた年を経験したことがない。しかしこの局面を可能な限り安定的に乗り切り,再び景気が好転したときに最適なポジションを確保できるよう,全力を尽くしている。
2023年に発表した「FORWARD!」アクションプランにより,景気後退への対策を講じている。コスト削減と投資削減により2023年はすでに1億ユーロの確保を実現した。グループの再編による効率的なポジショニングを含み組織再編により2025年以降は永続的に年間コストを約1億5,000万ユーロ削減する計画だ。
日本法人での取り組みと戦略的注力事業
日本法人でも2023年は顧客の在庫調整と需要の低迷により売上高が減少した。日本では10のビジネスユニットで,東京・丸の内に本社を構え,愛知県豊橋市にはラインケミーの予備分散ゴム製品の製造,液体高純化テクノロジーズのラボ,カスタマーテクニカルサービスセンターを置き,神奈川県川崎市には物質保護剤(微生物制御製品)のラボがある。
国内顧客のサービス向上のため設備投資を継続しており,豊橋事業所にはラインケミービジネスユニットの新倉庫や品質管理(QC)ラボ棟を新設,川崎市には新テクニカルセンターを開設し,物質保護剤の高度な試験能力を備え包括的な微生物試験を提供,パーソナルケア製品から工業用途まで幅広い業界の製品に対応している。
ランクセスは革新的なソリューションとして,コンシューマープロテクションでは,化粧品やパーソナルケア製品向けの防腐剤成分「ネオロン PH100」や長期消臭効果を実現する繊維向け微生物制御テクノロジー「シルバーデュア」,大気中のCO₂を吸着するイオン交換樹脂「レバチット VP OC 1065」を提供している。
スペシャリティー・アディティブスでは,ドイツ国内で調達した再生可能原料をもとに製造する持続可能な淡色硫黄系極圧添加剤「アディティン スコープブルー」,電気自動車(EV)向けの高電圧コネクタ用オレンジ染料「マクロレックス オレンジHT」や「バイプラストオレンジ TP LXS 51137」を提供。また,自動車タイヤ製品向けでは含有物の50%以上に持続可能な原材料を使用する,ゴム老化防止剤「ブルカノックス HS」を2024年末までに提供開始予定。
持続可能性への取り組み
持続可能性への取り組みに関しては,クライメートニュートラル2040を掲げており生産量減少だけではなく,さまざまな気候保護施策により操業時の排出量を大幅に削減している。2019年以降,「Scope1」と「Scope2」を年率平均で11%削減,「Scope3」も2019年以降,年率平均で14%削減している。
持続可能性を備えた製品であることを示す同社の認証ラベル「スコープブルー」製品である保存料,可塑剤,潤滑油添加剤,ポリマー添加剤,老化防止剤,イオン交換樹脂などを増加し,さらにカーボンフットプリントを自動計算するソフトウェアを特別に開発した。顧客の気候目標をサポートでき,ドイツの認証機関テュフが認証するソフトウェア。
2024年通期の業績については,コンシューマープロテクションはほぼ前年並みの業績,スペシャリティー・アディティブスは前年をやや上回る業績,アドバンスト中間体は前年を大きく上回る業績をそれぞれ見込む。
さらに,2024年の上半期は需要低迷が続くことや農業関連顧客の在庫調整負担の影響を受けるものの,下半期以降に販売数量が緩やかに改善する見通し。2024年通期のEBITDAは2023年の危機的業績は上回るが平均的な水準を大幅に下回ると想定する。国内においても気候変動リスクに対応した製品で社会に貢献していく。
展示コーナーでの潤滑油添加剤の紹介
記者説明会終了後には展示コーナーで自動車やバッテリー,産業用ロボット&製造装置,SDGs&環境保護をはじめ各ビジネスユニットにおける注力製品を紹介した。
ルブリカンツアディティブスでは,「アディティン®(Additin®)」製品群に自社の持続可能性認証ラベルである「スコープブルー(Scopeblue®)」を付与した淡色硫黄系極圧添加剤を2024年2月に発表した。
持続可能性は市場においてますます重視されるようになり,ランクセスでも重点的に取り組んでいる領域。様々な用途向けの製品で顧客を支援し,共に成長するために適切な製品を取り揃えるだけでなく,より持続可能で環境に優しい代替品も提供することで市場での優位性を維持する。
淡色硫黄系極圧添加剤はドイツ国内で調達された再生可能原料をもとに製造している。これらの原料は,EUエコラベルの申請を予定している潤滑剤メーカーにとって最も重要な基準で,「潤滑油物質分類リスト(LuSC)」の要件も満たしている。EUエコラベル潤滑剤は従来の潤滑剤よりも環境に優しい代替品であり,幅広い環境基準に配慮することにより生物多様性への影響を低減することを目的としている。
摩耗の低減と冷間圧接の防止「アディティン」ブランドの硫黄系極圧添加剤は淡色で臭いが少なく,主に金属加工潤滑剤に使用されている。金属表面の摩耗を低減し,高圧などの過酷な条件下でも金属表面の凝着を防止する。淡色硫黄系極圧添加剤は生態毒性に関する優位性を有するため,塩素化パラフィンの代替として浸透しつつある。塩素化パラフィンは環境残留性および生物蓄積性が高く,欧州化学物質庁(ECHA)において高懸念物質(SVHC)として分類されている。
次の「アディティン」製品は,再生可能原料をもとに製造された優れた持続可能製品として「スコープブルー」ラベルが付与されている。
- 「アディティン RC 2315」「アディティン RC 2317」:低動粘度,優れたぬれ性,グループI~Vの基油への高い溶解性
- 「アディティン RC 2410」「アディティン RC 2415」「アディティン RC 2418」:中~高動粘度,優れた潤滑性,高極性
- 「アディティン RC 2515」:優れた極性と潤滑性,金属表面との高い親和性,高動粘度
同社では,持続可能な原材料の含有率が50%超,またはカーボンフットプリントが従来の同等品の半分未満である製品に「スコープブルー」ラベルを付与している。これらの製品はマスバランス法を用いて計算され,従来の製品と化学的に同一で,新たな製造プロセスやツール,製品の改良は必要ない。
さらに,2023年末に持続可能な淡色硫黄キャリアの生産能力を数千トン増強した。投資額は数千万ユーロで,計画通り約2年間で,ドイツ・マンハイムの拠点において完成した。追加生産量は,2024年初頭から利用可能となった。
ルブリカントアディティブスビジネスユニット(LAB)は,「確かな実績に基づき,潤滑油製品に配合される塩素化パラフィンを,高性能でより環境に優しい硫黄系極圧添加剤への代替を検討するお客様に技術的な専門知識を提供する。」と説明している。
詳細は下記から参照できる。
https://lanxess.com/en/Company/Corporate-Structure/Business-Units/Lubricant-Additives-Business (’24 5/15)