2026年8月5日

工作機械の「MX」が切り開く製造業の未来―DMG森精機伊賀事業所に見るデジタル・自動化・環境対策の最前線

DMG森精機は2026年7月3日(金),三重県伊賀市の伊賀事業所で記者向けに,同社が提唱する「MX(マシニング・トランスフォーメーション)」を軸とした,工程集約と自動化,そしてDX(デジタル・トランスフォーメーション)を融合させた最新の生産体制を公開した。

下川 勝久 副社長によるMX戦略の説明に始まり,工場見学では製造現場における徹底したデジタル化と自動化の実態が示された。特に,AIを活用した予兆保全サービス「Condition Agent」や,経済産業省のGENIAC事業に採択された「製造フィジカルAI基盤」の研究開発,そして自動化の最大の障壁となる「加工3悪(切屑・クーラント・ミスト)」への革新的な対策など,工作機械のライフサイクル全体を支える同社の最先端技術が紹介された。

1.MX戦略と伊賀事業所の役割

見学会の冒頭,下川 副社長(写真1)は同社が推進するMXの現在と,その重要性について説明した。MXとは工作機械単体の性能向上にとどまらず,工程集約,自動化,デジタル,そしてGX(グリーン・トランスフォーメーション)を組み合わせてお客様の製造プロセス全体を最適化する取り組みである。

下川副社長-DMG森精機,2026年記者見学会
写真1 下川勝久副社長

下川 氏は,工場における重要な指標(KPI)として「資源,エネルギー,面積,リードタイム,人」の5つを挙げ,これらすべてを最も効率的で濁りのない(リーンかつクリーンな)状態に磨き上げることを目指していると述べた。具体的な目標として,従来は年間1,500時間程度にとどまっていた工作機械の稼働時間を,MXを通じて6,000時間まで引き上げることを掲げている。これを実現するためには人手に頼らず24時間稼働を可能にするシステム構築が不可欠であり,その核となるのが「ソフトウェア・デファインド・マシンツール(SDM)」という考え方だ。

伊賀事業所は,世界18拠点の製造拠点の中でも,5軸加工機や複合加工機,3Dプリンターなどの高度な機種を生産する中心的な役割を担っている。下川 氏は,主軸や刃物台,ボールねじなどのキーコンポーネントを内製化している点に触れ,「内製することで品質のキモがわかり,市場でのフィードバックを迅速に改善につなげられる」とその強みを強調。この信頼性を背景に,2026年4月からは主要な内製部品の保証期間を3年から5年に延長している。

2.徹底した現場改革の取り組み

次にMXが具体的にどのように現場へ実装されているか伊賀事業所の主要工場を見学した。第1組立工場では,組み立て後の機械精度測定のデジタル化が徹底されていた。従来は熟練技能者がダイヤルゲージの目盛りを目視で読み取り,手書きで記録していたが,現在はマグネスケール製のデジタルゲージとプラットフォーム「Tulip」を連携させ,数値を直接システムに取り込んでいる。これにより測定ミスの排除,合否判定の自動化,そして0.1ミクロン単位の高精度な計測が可能となった。横型マシニングセンタでは,41項目の精度検査のうち92%が自動計測化されており,経験の浅い作業者でも高精度な調整が可能となっている。

第2精密加工工場では,古い設備を同社の最新機種である工程集約機に置き換える改革が進められている。その結果,以前は49台あった設備が43台に削減されながら,必要となるオペレーター数は159名から51名へと,約3分の1にまで削減された。また,カバーのない古い機械をフルカバーの最新5軸加工機「DMU 340」等に更新することで,工場内の粉塵を抑制し,環境改善も同時に達成している。

工作機械の精度を左右するボールねじの専用工場では,さらなるMXの進化が見られた。従来5工程・5台の機械に分かれていた加工を,複合加工機「NTX 2500」1台に集約。これにより,中間在庫の概念が消失し,リードタイムが劇的に短縮された。さらに,自律走行ロボット(AMR)がワークの供給と完成品の回収を自動で行うことで,夜間や休日も完全に無人で稼働する体制が構築されている。

3.デジタル・自動化ソリューション

デジタルおよび自動化の領域については,執行役員 兼 テクニウム 社長のBlumenstengel 健太郎 氏,DMG MORI Digitalコネクティビティー部 部長の高橋 雅史 氏,WALC 社長の櫻井 努 氏の3名(写真2)が,同社のDX戦略と新技術について詳細を説明した。

右からBlumenstengel氏,高橋氏,櫻井氏-DMG森精機,2026年記者見学会
写真2 右からBlumenstengel氏,高橋氏,櫻井氏

Blumenstengel 氏は,同社のDXが「機械のデータプラットフォーム」と「お客様とのコミュニケーションプラットフォーム(my DMG MORI)」の2つで構成されていると述べた。高橋 氏はこれらをつなぐコネクティビティ技術について解説,最新の「IoT Connector CL」がグローバルなLTE通信に対応し,2027年までに全機種に標準搭載され,これにより「つながっていること」を前提としたサービス展開が可能になると話した。櫻井 氏からは,今回新たに標準機能として搭載された「Condition Agent」について詳しく解説した。

3-1 「Condition Agent」(写真3)

工作機械の主軸,送り軸,ATC(自動工具交換装置)などの重要コンポーネントを対象とした予兆保全サービス。特別なセンサーを追加することなく,専用のNCプログラムを数分間実行するだけで,機械の「健康診断」を行うことができる。

収集されたデータはクラウド上でAI分析され,経年劣化や異常の兆候を自動検知する。また,突発的な故障で機械が止まること(ダウンタイム)を未然に防ぎ,計画的な保全を可能にする。実際に,現場で異常に気付く5ヵ月前に予兆を検知し,部品を準備して計画的に修理できた事例も紹介した。

2026年4月受注分より標準搭載が開始され,他社機を含む既設機に対しても専用キットによる導入が可能となっている。

Condition Agent-DMG森精機,2026年記者見学会
写真3 Condition Agent

3-2 製造フィジカルAI基盤の研究開発

Blumenstengel 氏からは,経済産業省・NEDOのGENIAC事業に採択されたプロジェクトについて説明した(図1)。

製造現場で分断されている設備データや品質データを統合し,製造業全体の競争力を高めるAI基盤を構築すること。産業技術総合研究所(産総研)等と連携し,協力企業 100社・1,000台の生産設備から約100TBに及ぶ実運用データを収集・構造化する。

単なるテキストや画像のAIではなく,機械の電流値や振動などの物理的なデータと,加工プロセスを紐付けた「フィジカルAI」の開発を目指す。これにより,品質予測や消費電力の最適化,さらにはAMRや計測機を含むセル全体の自律的な最適化が可能になる。

生産管理データエコシステム-DMG森精機,2026年記者見学会
図1 生産管理データエコシステム

4.加工3悪対策(写真4)

自動化を推進する上で,最大の物理的障害となるのが「加工3悪(切屑・クーラント・ミスト)」である。切屑・クーラント・ミスト部 新規ユニット開発グループ長の船越 元気 氏(写真5)が,これらの課題を解決するための最新ソリューションを紹介した。

加工3悪対策ソリューション-DMG森精機,2026年記者見学会
写真4 加工3悪対策ソリューション
船越元気氏-DMG森精機,2026年記者見学会
写真5 船越元気氏

4-1 AIチップリムーバルによる切屑対策

切屑が工作機械の機内に堆積すると,自動運転が停止するだけでなく,作業者が機内清掃を行う必要が生じる。同社が提案する「AIチップリムーバル」は,機内カメラで切屑を認識し,AIが堆積場所を判別して洗浄タスクを自動生成する。オペレーターに代わって,適切なタイミングで切屑を自動的に洗い流すことで,連続稼働を支援する。

4-2 ゼロスラッジクーラントタンクによるクーラント対策

クーラントタンク内にスラッジ(加工屑の微細な沈殿物)が溜まると,加工精度が悪化し最悪の場合は主軸の故障につながる。

新開発の「ゼロスラッジクーラントタンク」は,底面に傾斜をつけた立型構造を採用している。また,タンク下部に設置されたポンプでクーラントを常時攪拌し,スラッジを堆積させずに自動回収する。これにより,タンク内の清掃頻度を劇的に減らし,クーラントの長寿命化を実現する。

4-3 zeroFOGによるミスト対策

加工中に発生するオイルミストは,労働環境の悪化や電子機器の故障の原因となる。同社は工作機械一体型のミストコレクター「zeroFOG」を自社開発した。機内のミストを徹底的に除去し,外部への漏洩を防ぐことで清潔な工場環境を維持する。

4-4 アダプティブクーラントフロー(ACF)(写真6)

従来,クーラントは常に最高圧力で吐出されていたが,ACFは工具や加工内容に合わせて最適な流量を自動的に調整する。これにより工具寿命に影響を与えずに,消費電力を最大約89%削減することに成功。また,必要以上の圧力をかけないことで,ミストの発生自体を抑制し,フィルターのコスト削減にも寄与する。ACFは2026年1月にリリースされた最新技術である。

Adaptive Coolant Flow-DMG森精機,2026年記者見学会

今回の見学会では,DMG森精機が掲げる「MX」は,もはや構想の段階ではなく,伊賀事業所の現場で高度に実用化されていることが紹介された。特に,潤滑や流体管理に関わる「加工3悪」への徹底したアプローチは,非常に実践的な取り組みとなっており,労働力不足や環境負荷低減といった,現代の製造業が直面する困難な課題に対して,デジタル技術と物理的な機械技術を高い次元で融合させた取り組みとなっている。(’26 8/5)

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