島津製作所は,新型コロナウイルスの治療薬候補である6つの既存薬に対応する安定同位体試薬を発売した。開発・製造はグループ会社である仏Alsachim SAS (以下,ALC社)が手掛け,日本国内の販売は同じくグループ会社で分析機器部品・消耗品を取り扱う島津ジーエルシーが担当する。
安定同位体試薬は,「化学的性質は同じながら質量数の異なる原子」である安定同位体で標識化された試薬で,質量分析計を用いて定量分析を行う際の内部標準物質として頻繁に使われる。近年,欧米の病院など臨床現場では,液体クロマトグラフ質量分析計(以下LC-MS)による「血中薬物モニタリング(TDM)」が盛んで,例えば,患者に免疫抑制剤を投与する際,投薬量を緻密に管理するには,血中の薬剤濃度を測定・監視するTDMが有効な手段となる。また製薬企業や研究機関による医薬品開発でも,治療効果や副作用と血中の薬物濃度の関係を調べる際に,LC-MSによる定量分析で安定同位体試薬が用いられる。
現在,世界各地の製薬会社は開発済みの薬の転用によって,新型コロナウイルス治療薬の開発期間の短縮を目指している。ALC社は2020年3月にレムデシビルやインフルエンザ治療薬(一般名:ファビピラビル)などの薬剤濃度測定に用いる安定同位体試薬を開発し,主に欧州で販売を始めていた。
