2025年3月19日

出光興産が全固体電池原料の量産に向け,千葉に大型製造装置の建設を決定

アーステック

出光興産は,全固体リチウムイオン二次電池(以下,全固体電池)の原料となる固体電解質の量産に向け,硫化リチウムの大型製造装置(以下,Li2S大型装置)を建設すると発表した。2027年6月の完工予定で,トヨタ自動車との協働により2027年~28年の全固体電池EV車の実用化を目指す。

記者会見する中本肇専務執行役員(左)と三品鉄路執行役員(右)-出光興産が全固体電池原料の量産に向け,千葉に大型製造装置の建設を決定
 記者会見する中本肇専務執行役員(左)と三品鉄路執行役員(右)

固体電解質の重要な中間原料である硫化リチウムの製造能力を年産1000t(EV用途なら5万~6万台)と世界トップクラスに拡大し,水酸化リチウムは投資する豪州鉱山から安定的に確保する。原料から中間原料,製品までの一貫したバリューチェーンを構築し自動車メーカーや電池メーカーのニーズに着実に応える。

固体電解質を中心としたバリューチェーンのイメージ図-出光興産が全固体電池原料の量産に向け,千葉に大型製造装置の建設を決定
 固体電解質を中心としたバリューチェーンのイメージ図

Li2S大型装置の建設予定地は出光興産千葉事業所(千葉県市原市)敷地内で,2027年6月の完工を予定している。この取り組みは,経済産業省から「蓄電池に係る供給確保計画」として認定され,総事業費約213億円のうち,約71億円が最大助成額として予定されている。この装置で製造する硫化リチウムを原料とした固体電解質の量産を加速し,様々な顧客へ高性能な固体電解質を広く届ける予定。これにより政府の方針である蓄電池サプライチェーンの強化を図るとともに,日本の蓄電池産業の競争力向上に貢献する。

全固体電池は,電解質が固体であるため従来の液系電池と比較しイオンがより速く動くことができるという特徴がある。そのため,全固体電池を搭載したEVは,充電時間のさらなる短縮や出力向上といったポテンシャルが見込まれる。また,高電圧・高温に強いため,エネルギー密度の向上や長寿命化も期待できる。

2027~28年の全固体電池の実用化を見据え,全固体電池に不可欠な材料である固体電解質の開発と量産体制の構築を推進してきたが,現在2つの小型実証設備が稼働しており,これらに続き2024年10月には大型パイロット装置の基本設計を開始した。今後,固体電解質の量産を進めるためには中間原料の硫化リチウムも量産化が必須であることから,今回Li2S大型装置の建設決定に至った。

硫化リチウムは,同社が手掛ける固体電解質の重要な中間原料で,石油製品の製造過程で副次的に発生する硫黄成分から製造する。硫黄成分の有用性をいち早く見出し1994年に硫化リチウムの量産技術を確立した。ハンドリングが難しい硫黄成分を長年扱うことで得られたノウハウと,高純度の硫化リチウムを製造する独自技術を持つ同社の強みを生かし,Li2S大型装置による世界トップクラスの量産を行う計画である。

硫化リチウム-出光興産が全固体電池原料の量産に向け,千葉に大型製造装置の建設を決定
 硫化リチウム

硫化リチウムの量産化は,同社が目指す固体電解質の事業化に向けた大きな一歩となる。固体電解質の性能向上および量産技術の開発加速と,バリューチェーン構築を着実に進め,次世代電池の本命とされる全固体電池の社会実装への貢献を目指す。

千葉事業所では,SAF(持続可能な航空燃料)の製造実証施設,使用済みプラスチックの再資源化を行う施設の設置も進めており,カーボンニュートラルや脱炭素の拠点として進化していく。また千葉エリアでは,研究開発の拠点として,千葉事業所内に,2027年を目標に統合研究所「イノベーションセンター」を設立する。潤滑油の研究を行う営業研究所や複数の研究員約1000人が集結し次世代技術の研究開発を加速する。(’25 3/19)

千葉事業所には製油所・石油化学工場・潤滑油製造拠点が隣接する-出光興産が全固体電池原料の量産に向け,千葉に大型製造装置の建設を決定
 千葉事業所には製油所・石油化学工場・潤滑油製造拠点が隣接する

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